クリスマス代行サービス。
「クリぼっち様、必見!あなたの考えた理想のクリスマスプランを、私が代わりに楽しみます!費用はいただきません。お名前もお聞きしません。気になる方は、こちらのTwitterアカウント@〜〜〜〜まで。」
ツイッターを眺めていると、どこからかそんなツイートが回ってきた。
私は理沙、25歳のOL。ここ数年彼氏ができたことはないし、今年のクリスマスもぼっち見込み。クリスマスのことなんて意識から外そうとしていたところに、何でしょうか?このふざけたツイートは。
そう思って最初は無視しようと思っていたけれど、だんだんと気になってきた。妙にもやっとする。どうせクリスマスも予定はないし、名前もバレないなら、いたずらに乗ってやろうじゃない。
「はじめまして。ツイートを読みました。クリスマス当日はあいにく仕事で忙しいのですが、代行をお願いできますでしょうか?」
…本当は「クリスマスはプライベートの予定がある」と意地を張るために、無意味に有給をとったんですけどね。
「まさか連絡が来るとは思いませんでした!こちらこそ、はじめまして。それでは、理想のクリスマスプランをダイレクトメッセージにてお送りくださいませ。」
連絡が来ると思わなかったんかい。まあ、いいや。どうせいたずらなんだし、ありったけ無茶なプランを振ってやろう。
「クリスマスは朝早く起きて、始発で渋谷のブランドショップに並んで、クリスマス限定商品を買う。お昼には、近くのスイーツビュッフェのお店で、ケーキを全種類食い尽くす。夕方になったら、栃木県の有名なイルミネーションを見て、子供たちにプレゼントを100個配ること。1日サンタ服でお願いね。あと、もちろんすべて1人でね。」
「了解しました。クリスマス当日は、こちらのダイレクトメッセージにて状況を報告いたしますね。」
いや、ほんとにやるんかい。1人で回るには体力的にも限界があるし、無理でしょう。それとも、相手は複数人なのかな?やっぱりいたずら?そんなことを思ったような思わなかったようなで、仕事に明け暮れて日々を過ごしていたら気がつけばクリスマス。イブもテレビを見ながらお酒を飲んで終わったんですけどね。
「おはようございます。本日は、しっかりと代行を務めさせていただきます。衣装の調達の都合上、ズボンではなくスカートとなってしまいましたが、ご容赦くださいませ。それから、絶対に、隠れて観察とかはしないでくださいね。」
ふむふむ、相手は女の子なのかしら。そうだとしたら、ほんの少しだけ安心感というか親近感。
でも、隠れて観察するな、なんて言われたら観察したくなるのが人間の性。どうせ暇だし、渋谷で並んでいるところだけでも観察してやろうかしら。家から徒歩10分だし。
「いま、列に並んでいます!とても寒いです。」
朝8時頃、そんなメッセージが届いた。寝起きで髪はボサボサだけど、急いで上着を着て家を出て、ブランドショップ前の行列を遠くからさりげなーく覗いてみる。
本当にいた。1人だけサンタ服なのだから、目立つのなんの。どんな子なんだろう、とバレないように前の方からすれ違いざまに顔を伺ってみると、20歳くらいの子かしら、とってもかわいい。
クリスマスに1人でこんな変なことをしているとはとても思えない。むしろ、なんだか申し訳なくなってきた。
「そうですか。私はあいにく仕事ですが、今日は代行よろしくお願いしますね。」
今日は1日暇だし、もう少し観察を続けてみようかな。でも寒いし一旦家に戻ろう。
「1つ目の代行は無事、完了しました!次はケーキを食べ尽くしてきます。」
ほんとに食べ尽くすのかしら。あの華奢な子が?お店に入って食べたふりだけする、なんてこともありえるし…。よし、自分もお店に入ってこっそり観察してみよう。
そういえばここのケーキビュッフェ、昔彼氏とよく行ったなぁ。そうそう、いちごのケーキがとっても美味しいのよね。忘れかけてた味。あ、新作の抹茶プリンなんて出てたんだ。どうせ来たんだし食べてみようかな。
ところで、あの子は山盛りケーキを取ってきているわね。カロリーとか大丈夫かしら。
「全種類なんとか食べきりました!いちごケーキの味は〜〜〜。チョコケーキは記事がふわっとしていて〜〜〜。チーズケーキは濃厚で〜〜〜。最新のプリンは〜〜〜。」
全15種類のケーキについて、詳細な味の感想が送られてきた。うんうん、昔通ってたからよくわかる。というかほんとにしっかり食べたのね。
「百貨店でプレゼントと袋を用意したあと、栃木に向かいますね!」
もうここまで来たら、自分もついて行って彼女を観察するしかない。見失ったら嫌だから、バレないように尾行して、同じ電車に乗ろう。
ちなみに、イルミネーションの会場は、一昨年くらいから目の前に駅ができたらしい。
そんなこんなで到着。
さて、一人でイルミネーションを見るつもりなんてさらさらなかったのだけれど、どうせ来たのだから、仕方ない。彼女を見失わない程度の距離で尾行しながら、イルミネーションを見て回る。
藤のコーナーなんか、一面紫色でとても綺麗。湖面に浮かぶピラミッドも、幻想的。ところで、彼女はサンタの格好でゆっくりゆっくりと園内を隈なく散策していて、とても楽しそう。
園内を一周したあと、出口のあたりでおもむろに袋を取り出す彼女。そうそう、最後はプレゼントを配らないとね。
「プレゼント、配ってます!」
最初は威勢良く配ろうとしていたけれど、案外断られることも多いみたい。
「子供だけじゃなくて、大人の方でも、カップルの方でももらっていってください…余ってしまうので…。」
遠くから観察していると、そんな弱々しい声が聞こえたので、自分もどさくさに紛れてもらってあげることに。
「あ、ありがとうございます!」と満面の笑みで袋の奥深くに手を入れ、プレゼントの便箋を渡してくれた。
便箋を開けてみると、
「メリークリスマス!今日は楽しい一日になりましたか?」
おしまい。